浪人時代に

浪人して予備校に通っていたときにIという友人がいた。

当時、東京の予備校に通っていたため、埼玉にある寮に入り一時間かけて通っていたのだが、彼はその寮で向かいの部屋の住人だった。

僕はだいたい外出していて、夜も門限近くにならないと帰らず、日中に部屋にいることはほとんどなかった。同様に彼もまたどこぞとなく出かけていたようだった。

しばらくして仲良くなってくると、だんだん彼の背景が見えてくるようになってきた。医学部志望で実力もありまじめである一方で、自分なりの世界も持っていた。

彼が教えてくれたものといえば、アイドルとタバコと少女マンガと平井堅くらいのものである。

握手会のイベントがあれば予備校をサボってでもアキバに出向き、12月にはカレンダーをプレゼントしてくれ、夜中に部屋に行くとタバコを片手に『CM NOW』なんかを読んでいるのである。

アイドルが大好きな彼は、身近にいる女の子も好きで、気になってる娘について話をされたこともある。しかし、見に行ってみると多少童顔ではあるが、えてしてアイドルほどは美人ではない、普通の娘を好んでいたようである。

そんな趣味と現実をきっちり区別できている彼を見てひとり感心した。最近のおとな達も見習って欲しいものだ。

そんな彼は年明けに池脇千鶴に大嵌りしたりして、結局この年の受験には失敗した。ここでまた僕も『ほどほどにしよう』と気付かされたのである。

そんな彼は1回生の夏に『プチモビクス』のDVDを送ってきて以来、音信不通になっている。今、どこで何をしているのか知らないが、早めにDVDはお返ししておきたいところである。

以下、彼から唯一受け取った手紙。

 こんなことしてたら受かるものも受かりません。