鮭とばのおっさん

鮭とばのおっさん』という都市伝説をご存知だろうか。
バブル期くらいに関東以南で広まった噂で、近年ではかなり廃れており、今となっては知っている人はかなり稀である。

そもそも鮭とばとは鮭を棒状にした干物のことであり、今でも酒のつまみとしても人気がある。もともとはアイヌ民族の保存食だったらしい。
食べ方としてはそのまま食べてもいいが、少し炙るとかなり風味が増してさらにおいしくなる。
鮭とばのおっさんは鮭とばの入った袋を片手に、もう片方の手にはワンカップの酒を持ってほろ酔い加減で現れていたらしい。
年齢は20代から40代まで様々な説があり不詳だが、『おっさん』であるという認識だけは共通している。
ただし、服装はしっかりしており、警察に通報されることがなかったことからも裏付けられるように、怪しい雰囲気は持っていなかったそうだ。

最初の舞台は高度経済成長期の後半であたりで、このおっさんが学校帰りの子供たちに
鮭とばいるかい?』
と気さくに話しかけ、欲しがる子供たちに鮭とばを配り続けたそうだ。
遊びつかれた子供たちには塩気の効いた鮭とばはたいそうおいしかったに違いない。
ただ、この話は怪談ではないため、この鮭とばを食べたからといって何が起こるわけでもない。ただただ普通の鮭とばを配っていただけらしい。
ただし、おっさんが言ったのかどうかは知らないが、鮭とばをもらったことはいちおう親には秘密にすることがルールになっていたそうだ。

これだけでは変わり者の干物業者が日本中を練り歩いていた、くらいの話で片付いてしまうが、実はこれには続きがある。

経済成長期後も、教科書どおり都市をとった風でもないおっさんは現役で配り続けていたそうだが、公害の問題が深刻化したり、グリコ・森永事件などもあり世の中の意識は変わりつつあったそうだ。
見知らぬ人に道を聞かれても関わるなと教えるような今で考えれば、確かに、学校帰りの子供たちに話しかけるなど、不審者の代表であるし、ましてや何の目的があるのかもわからない鮭とばを受け取るなど考えられない。
こんな意識が芽生えてきたこともあって、少しずつおっさんから鮭とばを受け取る子供は減っていったらしい。