夏の旅行

お盆の少し前、しまなみ海道に行く機会があった。

漠然と四国をかすめて山口へ向かうというプランはあったものの、

次の日の詳細は前日の夜に決めるという臨機応変な旅だった。

有能な助言者に恵まれたため、高松では順調に讃岐うどんを食し、讃岐一宮も参ることができた。

夕方になって、そんな有能なおもちにお礼とこれから松山へ向かうというメールを出したが、

結局その日に松山に着くことはなかった。というか、そのまま高松にいた。

当初の予定では、夕方に高松を発ち、松山の道後温泉でゆったり旅の疲れを流すはずだったが、

高松にとどまったのは偏にレンタサイクルのせいであった。

その日も連日の猛暑が続いていて、それなのに『一日100円』の値段に釣られ、

特に何も考えずに勢いでレンタサイクル『ことひら』を借りてしまった。

幸運だったのは市内のうどん屋をまわる分にはちょうどよく、高松の街も満喫できたことだった。

まさに、高松市を舌と肌で感じることができた。

不幸だったのは、調子に乗って讃岐一宮まで『ことひら』で行こうと思いついたことだった。

『るるぶ』の高松市の地図には載っていないほどに遠く、炎天下である。

途中のユニクロで着替えを買ったものの、すぐに古着のようにしおしおになり、

市内に戻ってくる頃には部活帰りの中学生のように見窄らしくなっていた。

松山行きに止めを刺したのは、栗林公園の入り口のおばちゃんだった。

早く駅へ向かおうと思いことひらを走らせると、寺町通にある御所の入口ような門を見つけた。

過去の習慣も手伝ってか、そこで思わずハンドルを切ってしまった。

それがいけなかった。

そこは栗林公園の東門で、その先は栗林公園の駐輪場で行き止まりになっていた。

仕方なく引き返そうとすると、チケット売り場のおばちゃんが満面の笑みで

『自転車はそっちで大丈夫よ』

教えてくれた。

大丈夫ではないのだけど、おばちゃんがそう言うならもう何も言えず、笑顔で

『ありがとうございます』

と答えて、自転車を停め、入場券を買った。

こうして行く気もなかった栗林公園の広大な敷地に足を踏み入れたのだった。

せめて入園料の分くらいは楽しもうと、閉園時間まで彷徨くはめになったのだが、

出口であがりの守衛さんらしき人に

『お疲れさまでした』

と言われたのが、人違いだったにしてもやけに堪えた。

こうして夕飯も望外の讃岐うどんとなり、高松駅前に宿をとることとなった。